藤末 健三 「価値観のコペルニクス的転回@MIT」

参議院議員の藤末健三です。 MITで学んだのが17年前です。通産省で数年働いた後、留学し(1995年)、帰国後、社会人博士課程で博士号を取り大学に移り(1999年)、そして大学から参議院全国区の選挙に出て当選し(2004年)、今日に至っています。 このような珍しいキャリアということもあって投稿を求められたと思いますので、自分のキャリアにMIT留学が与えた影響を三つ書かせていただこうと思います。相当特殊な考えを持っていると自分でも認識しており、一般的な参考にはなりませんが、お許しください。

1.転職できるようになった
そもそも留学をした理由は転職できるようになりたかったからです。 入省数年したときにリクルートの転職相談センターが新橋にあり、自分は民間だったらいくらもらえるか興味があり、行ってみました。そこでコンサルタントから言われた言葉は「いくら公務員試験の成績が良くても役人のスキルは民間では使えない。転職できないよ。」「ただ、留学すれば外資系が雇ってくれる。」という厳しい指摘。 厳しい現実を知ったときでした。 この時から、英語の勉強をがんばりました。そもそも大学時代をボート一色で染めてしまった自分ですので、英語など全くできませんでしたが、なんとか人生のオプションを作りたいとの思いから英語を必死で勉強し、留学できたのでした。 実際に大学に移るときにコンサルティング会社にもオファーを出しましたが、ほとんどの会社からアクセプトの返事をもらった時は、あのリクルートのコンサルタントは正しいことを言ってくれたなと感謝しました。

2.勉強が好きになった
留学前は、環境政策を担当しており、今思うと意味もなく忙しくしていました。ようやく渡米できたと思ったら、翌週からいきなり講義が始まるという状況でした。 でも授業は楽しく、世界トップの教授の講義を聴けるのは幸せでした。朝予習をし、帰って復習し、寝て、また予習をする。という日々。3ヶ月で5kgくらいやせました。相当なストレスがあったことを思い出します。人生の中で最も勉強した瞬間でした。 仕事は私はやらなくても誰かがやってくれますが、勉強は自分でやるしかありません。とにかく、必死で周りに追いつこうと勉強しましたが、やはり勉強が面白かったから頑張れたのだと思います。 James Utterback, Donald Rezzardなどの講義を受け、オフィスアワーにはたどたどしい英語で話をさせてもらいました。今でもチャールズ川が見えるオフィスで色々な議論をしたことを思い出します。本当にあのひとときは最高でした。

3.自分というものを中心に考えれるようになった
私は留学で初めてアメリカの土を踏みました。したがって、全く海外の知識はないままで渡米しました。 アメリカに来て最初に驚いたのが「住所の書き方が日本の逆」ということでした。日本でしたら、日本国、熊本市、南熊本、3丁目、藤末健三となりますが、アメリカではKenzo Fujisue, 3chome, Minami-kumamoto, Kumamoto, Japanとなります。つまり、日本では大きな範囲から最後に自分となりますが、アメリカでは自分から段々と範囲が広くなっていくのです。 アメリカ人になんでこうなのか?ときくと逆になんで日本は国から始まるのか?と聞かれ、やはりこれは文化の問題かという話になり、アメリカというか西洋では自分が中心の文化で、日本や東洋では外部の環境から自分を定義する文化ではないかということになりました。 全く素人文化論ですが、西洋では名前も姓名でなく、名姓ですから、やはり自分が中心となっているのではないでしょうか。 これはつまらない思い出の一例かもしれませんが、アメリカ人とつきあっていると、自分というものをよく考えているなと感じました。私は何も考えず大学を卒業し、そのまま国家公務員になり、何も考えずにひたすら仕事をしていましたので、ボストンで自分が今後なにをすればいいのか、なにをしたいのか、を考えるようになりました。もしかしたら、別にアメリカでなくとも、暇ができれば考えたかもしれませんが、自分というものを強く意識できたのは留学させてもらったからだと思います。 きっとあのときに留学しようと思わなかったら、何も考えずにひたすら役所で仕事を続けていたと確信します。その意味では、自分の人生などを考えるきっかけになりました。

最後になりますが、私はMITに留学して本当に良かったと思っています。留学前は連日深夜までの激務でしたが、それでも留学に必要な勉強を継続し、留学を果たせたのは家族の存在という励みがあったからでした。 MITでは、学問の楽しさを知ると同時に「個人としての存在」を意識するようになり、その後のキャリアにも影響を受けました。 これから受験を考えている皆さんも、ぜひ頑張ってほしいと思います。